体力勝負のレポート作成指導

都立大泉高等学校の「情報A」の授業では,1学期に「情報の表現」をテーマとした総合実習を行い,一連の実習の成果については短い論文(レポート)として提出することになっている.ここでは,論文作成指導を行うに至った動機や,指導した際の生徒の様子などについて述べる.

まず,筆者自身が自分が書いたレポートないし論文について添削指導を受けたのは,大学の卒業論文の抄録を書いたときが初めてであった.それまでは,「レポートを出しなさい」と言われて出しはしたものの,返却されることもなく手元には成績だけが残ることが多かったように記憶している.そもそも授業の枠組みの中で「レポートを出しなさい」と言われる機会そのものにも恵まれていなかったようにも思える.

一方で,大学入試においては小論文,アルバイトや就職するにあたっては履歴書,奨学金を得るためには書類で自分をアピールするしかないなど,何かしら書いて相手に自分の意図を伝えなければならない場面には多く直面することとなる.そして,経験的に文章を書く訓練を受けた後は,「書きモノ」への取り組みやすさもはっきりと違うこともわかったので,このような訓練,すなわち書面で自分の意図を相手に伝える工夫は早いうちに習うにこしたことはないのではないだろうか.これが,レポート作成指導を行おうと思った動機である.

本校での「情報A」でレポート作成指導が入るのは,総合実習が一段落ついた頃である.特に自分が言いたいことをいかに構成するか,という点に注目して文章の組み立て方を指導する.指導する上で配布する資料はここに示す通りである.2007年度は,

  • レポートガイダンス
  • 伝わる文章を書くためにはまず構成の理解から
  • 文章をワープロで“構築”してみよう

の資料を1~2時間で解説し,レポートは「序論―本論―結論」で構成されるもので,「概要から詳細へ」という原則のもとにトップダウン形式で論を展開するところへと理解を促す.そして,

  • 文章をワープロで“構築”してみよう(PC作業用ファイル)
  • Microsoft Word2002の操作

の資料を使って,1時間程度で「表題」,「見出し」,「段落」,「図の参照」などをWordの機能を実際に使いながらマークアップし,最後に表示をアウトラインに切り替えることによって全体の流れを検討できるところまで解説した.この部分では文章については教員が書いたものを教材として提供し文字入力の手間を軽減させ,その分生徒はレポートの構造を意識してPCを操作することができるよう工夫した.時間に余裕があるクラスには,見出しや段落などのメタ情報を人間側とワープロ側とで共有する意義についても話すことができた.

では,この授業を受ければ,レポートを書くことができるようになるかというと,頭で理解することと実際にできることは異なるので,期待通りにはいかない.

  • 「引用は必要最小限で,自分の意見を裏付ける補助として」ということは頭で分かっていても,実際は文献の内容を多く写してしまったりする.
  • 「文献の記述に基づいて自分の意見を述べる」といっても,文献の言うことを繰り返すにとどまってしまう.
  • 問題を発見・整理している部分の記述と,解決案の部分の記述に食い違いが起こる.自分が発見した問題への理解が不足しているか,文献調査不足なのか,その他の要因なのかは生徒によって異なるが,何らかのことが原因でこのようなことが起こる.
  • 「はじめに」と「おわりに」の扱いに生徒は悩む.「概要」が「詳細」になってしまう,「総括」が「感想」になってしまう・・・

しかし,これらのことは訓練することにより改善できることである.したがって,レポート作成においてはフィードバックをかけながら完成させることが望ましい.しかし,時間的に余裕がないのでなかなか思うようにいかない.これはおそらくずっと抱える悩みだろうが,思考錯誤はできる.2005年度~2006年度は,レポート作成の時間を3時間程度とった.そして授業中,早めに出来上がった生徒に対しては,プリンタで印刷させて教員がペンで改善すべきところを指摘するという方法でフィードバックを入れることを試みたが,1クラスあたり数人にフィードバックするにとどまった.提出時期も冬休み直前ということもあって,他の大多数に対しては,原稿にペン入れできず,

  • 序論―本論―結論の構成になっているか
  • タイトルはこのレポートのテーマを概観するものとなっているか
  • 資料に基づいて客観的な視点で論じているか

など設定した評価規準への到達度をひとりひとりに提示するにとどまった.

2007年度は,情報の授業が週2時間になったこともあり,レポート作成の時間を4時間とし,しかもレポートの提出期限を夏休み前に設定することができた.「早くできた生徒は教員にレポートを見せて指導を受けてもよい」としたところ,授業が2時間続きということもあって授業中にフィードバックできる生徒の数は多くなった.特に提出日(終業式の日)には午前10時30分から7時間もPC教室は生徒であふれ,教員はずっとレポートをフィードバックする展開となった.生徒によっては,他の生徒が指導されているところを見て自分のレポートを直したり,自分が受けた指導内容をほかの生徒に教えてあげたりと,内容をよくするために一生懸命に取り組む様子も多く見受けられた.この向上心と意欲に刺激されて,筆者も頑張らねば,と気持ちを入れ直すのである.確かに教員にとっては体力的には厳しい.しかし,それは意欲的な生徒が多いゆえのきつさなのだから,喜ぶべきことである.

それでも提出前にすべての生徒にフィードバックすることはできなかったが(もっとも指導されたくない生徒も居るので全員に対してフィードバックするのは不可能ではあるが),これからの夏休み期間にすべてのレポートにペン入れし,添削結果を文章で意図を伝える技術向上の役に立ててもらえれば,と思っている.もちろん,提出した全員に対して,評価の観点と,観点への到達度については提示する予定である.

レポートやプレゼンテーションは,フィードバックすることで技能は向上する.しかし,その余裕は無い.無い中でも工夫できることがあれば,それから実行するのみである.